パートナー亡き後も恋愛するのがドイツ流。「高齢者にあるのは“今”だけ」にハッとした【梁木みのり】
『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』を読む
■「高齢者にあるのは“今”だけ。高齢者こそ“今”を楽しむ」
サンドラさんの友人は本書でこう語っている。
「子どもには『将来』がある。でも高齢者には『将来』なんてぶっちゃけないのよ。高齢者にあるのは『今』だけ。高齢者こそ、『今』を楽しむことが大事なんじゃないかしら」
節約が生き甲斐で、お金に困っていなくても「タダ」「半額」のために奔走する高齢者のエピソードもある。節約家の多さは、「ドイツ人といえば」のイメージ通りの実態なのだそう。こちらも日本なら「高齢なのにケチケチして……」とネガティブに見られそうだが、ドイツの高齢者はあくまで自分の「こうしたい、こう生きる」を貫いて暮らしている。
一方で、日本と同じような問題を抱える一面も。家族の中で介護の必要が生じた時、妻・娘・息子の妻といった女性陣が主に担うのは、ドイツも同じだそう。しかも、男性が就業し、女性は家庭のケア労働を担っていた昔と違い、現在のドイツでは「老後の資金は自分で用意すべき」「経済面で男性に頼ることはタブー」という風潮らしい。それなのにケア労働イコール女性という価値観が変わっていないのは、女性の負担を増やしているとサンドラさんは指摘する。
また、認知症になっても運転しようとする男性の話も、日本でもあるあるではないだろうか。車のカギを取り上げた妻の苦労が紹介されていて、共感しながら読める人も多そうだ。
ドイツ人の多くが、終活などせずに突然死で「ぽっくり逝きたい」と言う。本の全体を通して、ドイツ人は良い意味で「ドライ」だなという印象。エピローグで紹介されている、サンドラさんの母の言葉がまさに、ドイツの国民性を端的に言い表しているだろう。
「ドイツ人がいいのは、やっぱり本音で話せることよ」
「でも必要以上に踏み込んでこないし、気持ちのいい関係なのよ」
「何歳になっても何を着てもいいし、何をしてもいいのがドイツで、それがすごく楽」
日本の価値観はウェットで、「こうあるべき」に縛られがち。サンドラさんの母も、そこから自由になれるドイツに惚れ込んでいるのでは。本書を通して、老いや終活に対して無意識に「こうあるべき」を抱いていた読者が、「こうしてもいいんだ」と楽に考えられるようになるはずだ。
海の向こうの人たちと、「お互い大変だね」と肩を叩き合えるような気持ちになる、心強い一冊だった。
文:梁木みのり(BEST T!MES)
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